連星中性子星の合体のシミュレーション・コードの完成までに解決すべき問題が いくつか残っている。ひとつは,先に述べた時間スライスと空間座標の取り方と その数値解法の問題である。さらに,流体や重力場の時間発展方程式(双曲型偏 微分方程式)に対しても,安定で高精度な数値解法の開発が必要である。この方 程式は,基本的に流体力学のオイラー方程式とよく似た方程式であるが,速度場 の定義のちがいなどにより,方程式の性質は異るため,数値流体力学の手法を単 純に当てはめられない面がある。
この他にも,計算結果の蓄積の問題もある。 非常に大きな計算のため,計算結果を解析して何が起っているのか 明らかにするためには,計算結果をディスクに保存して,シミュレーションが終 わってから,星の立体構造や重力場の時間変化を動画として表示することを含め た解析が必要になる。そのために必要なデータ量は,100ギガバイトから1000ギ ガバイト程度にもなり得る。これをどのように蓄積して解析するかというのは非 常に大きな問題となってくる。
どこまでの計算が可能かということは,スーパーコンピュータの進歩にも依って いるところが少なくない。次期スーパーコンピュータに関して,KEKでは導入に 向けての具体的な議論が始まっており,国立天文台でもまもなく具体化してくる だろう。期待される性能は,現有のスーパーコンピュータの数十倍である,1TB(テ ラバイト=1000GB),1TFLOPS (=1000GFLOPS)程度である。高性能な計算機が使える ようになると,単に格子点の数を増やすことができて精度良い計算ができるよう になるというだけでなく,今まで様々の工夫をこらさなければならなかった点が, かなり単純な方法を用いてクリアできることが少なくない。そういう意味で,次 期コンピュータへの期待は大きい。