今年の3月,Numerical Astrophysics 1998という国際会議が東京で開催され, 約20ヶ国からの180人以上の参加者と100以上の研究発表(ポスター発表を含む)が あった[1]。 分野は,惑星から宇宙の大規模構造までを含み,計算機シ ミュレーションが天体物理学理論の研究において非常に重要な手法となっている ことを示していると言えよう。
数値天体物理学(Numerical Astrophysics)というのは,複雑な方程式をコ ンピュータを使って数値的に解き,様々な天体や宇宙の構造,進化を解明しよう という学問である。このような手法は,天体物理学独特のものではなく,広く物 理学や工学の分野で利用されている。一般に,物理学の理論と実験,観測を比較 するためには,理論に出てくる方程式を何らかの方法で解かなければならない。 あるいは,現実の機械や装置の設計をする際にも, 理論的な方程式を解くことを要求される。これらの方程式を解くには,普通何ら かの簡単化や近似をする必要がある。例えば,球対称や軸対称のような対称性を 仮定して変数の量を少なくするとか,ある物理量は非常に小さいとして,その量 に対して巾級数展開をするなどである。しかし,現実的な問題では,このような 仮定が適用できなかったり,あるいはこのような簡単化をしても方程式を解くこ とが容易でないことが少なくない。宇宙物理学では,この種の問題がたくさんあ る。例えば,二重星の問題では,基本的に球対称や軸対称性は全くないし,磁場 や星の内部でのエネルギー輸送など考える必要がある場合には,たとえ軸対称系 でも方程式を解析的に解くことはほとんど不可能である。
「計算物理学」という手法がこのような問題の研究に新しい境地を開いた。コン ピュータのことをよくご存じない人は,コンピュータを使えば何でも方程式を解 くことは簡単にできるように思うかもしれないが,コンピュータを使って数値的 に方程式を解くためにもある種の近似がなされる。つまり,現代の高速なコンピュー タは,いわゆるデジタル計算機であるので,連続的に分布する量をデジタル化す る必要がある。例えは,連続的に存在する時間と空 間を有限の間隔の格子に分割したり,連続的に分布する流体を有限な要素の集合 としてとらえることが必要になる。これは,方程式を近似するための微少な物理 量がない状況に,時間と空間を分割した格子の間隔とか流体を分割した要素の大 きさという微少量を人為的に導入することにより,方程式を解けるようにすると 見ることができる。