宇宙物理学において残された最大の問題の一つとして 銀河形成が存在する。銀河は宇宙を構成する主要要素の一つであるにも 拘らず、その具体的な形成過程は明らかにされてはいない。ただ、アウトラインは次のように理解さている。
1. 熱い火の玉宇宙(Big Bang Universe)において、宇宙膨張にともない温度が下がり、それまでばらばらのプラズマ状態だった、水素やヘリウムの原子核と電子が結合して原子が生まれる。その結果、宇宙のガスが中性化することによって輻射と物質の相互作用が劇的に弱まり、ガスは輻射の圧力を感じずに重力収縮できるようになる。
2. 宇宙初期に形成された微小な密度ゆらぎは、より小質量のものほど、大きな揺らぎをもつものが多いと考えられるので、現在の銀河よりも多少小さい天体(亜銀河天体)から収縮していく。
3.
収縮してできたガス雲が収縮してできたガス雲が効率よく冷却すると、より小さい塊に分裂して、それぞれが収縮して星が形成される。星が効率よく形成されるための条件を満たした天体の形成が宇宙最初期天体の形成条件である。
これは、銀河として観測される天体が、基本的には恒星によって構成された系であることによる。そのため、銀河や初期天体の形成・進化を調べるためには原始銀河雲内での星の形史を調べる必要がある。具体的には、形成中および 形成後の銀河内の物理条件によって、星形成率や初期質量関数など大局的な星形成を特徴づける量がどう決定されるかを調べることが銀河の形成・進化の研究にとって決定的に重要なのである。
我々は第一段階として、重元素を含まない原始ガスの熱的・力学的進化の 研究を行った。 原始銀河雲を構成する 原始ガス中には重元素が存在しないため、水素分子の回転・振動準位の 励起による放射冷却が決定的に重要になる。ところが水素分子は 双極子能率を持たないため、ガス中での形成率が低いうえに冷却効率も 悪い。そのため力学的進化のタイムスケールが異なると、 ガスの熱的進化がまったく異なる場合がある。そこで化学進化と 輻射輸送を合わせた熱的過程と力学的過程を同時に解くことが 必要になる。我々は、衝撃波加熱の影響も精密に考慮しながら、 原始銀河雲の進化を追い、分裂片のスケールを求めた。 また、分裂片が主として水素分子からの輻射によって冷却し、 収縮して星的コア(proto star)が形成される過程も調べた。
そして、初期に形成された星の母体銀河雲への影響についても研究中も 行った。その結果、重元素量が太陽組成の約1%以下の銀河雲では、 紫外線による水素分子の解離によって冷却が困難になり、 星形成が自己調整されることがわかった。また、母体銀河雲の 重力ポテンシャルが浅い場合には、超新星爆発の影響が甚大である ことも示した。これらの結果、明るい天体として進化できるための条件として、 母体になる天体の総質量が太陽質量の数千万倍以上必要であることを 予測した。 現在、より詳細な研究を行っている。